アクティブ株式会社 代表取締役
泉 博伸 氏(いずみ・ひろのぶ)
東京国税局に入局し、国税滞納法人等の調査・差押え等の徴収実務に従事。その後、大手信用調査会社で信用調査、商社審査部で与信リスク管理の実務を経験。
2016年8月、アクティブ株式会社を設立。反社会的勢力・マネーロンダリング・与信・社内不正にまたがる横断的視点でリスク調査に取り組んでいる。また調査業務を通じて得た知見をもとに、審査担当者や営業パーソン向けの研修やブラッシュアップ講座も手掛けている。
コンプライアンスチェック導入コラム
2025年7月28日掲載
コンプライアンス反社チェック取引先審査レピュテーションリスク
こんにちは。このコラムでは、コンプライアンスチェックの実務における基本的な考え方や調査方法について解説します。
初めての方にも理解しやすいよう、例を交えてわかりやすく説明していますので、これからコンプライアンスチェック体制の導入を考えている方から、既にコンプライアンス業務を担当されている方まで、リスク対策に関わる幅広い層の方に読んでいただきたい内容です。
コンプライアンスチェック、反社チェック、信用調査、与信管理など、自社が関係を持ってよい相手(法人)かどうかを調べて判断する仕事を、ここでは一括りに「法人審査」と呼ぶことにします。マンションなどの賃借を希望する個人の勤め先を調べる工程も、その部分は法人審査といえます。
法人審査において、必ず確認しなければならないことがあります。それは、相手が法的に存在するか(実在)、実際に稼働しているか(実体)、そしてその稼働の状態に不芳な要素がないか(実態)を確認するということです。(不芳とは、良くないという意味で「ふほう」と読みます)
この実在、実体、実態、すなわち3つの「実」の確認を徹底しないがために、詐欺に巻き込まれたり、従業員による会社資金の不正流用といった不祥事を防げなかったり、反社会的勢力が関係する相手と取引をして、マネーロンダリングに加担してしまうといった事態に陥ることが往々にして見られます。
もし読者の皆様の所属先において取引相手が関与した何らかの問題や不祥事が起きてしまった場合、この3つの「実」のいずれかが徹底されていなかった可能性が高いと思います。「実在」しない相手に商品を送付してしまった、「実体」のない相手に多額の支払いをしたが自社の社員がそこからキックバックを得て私腹を肥やしていた、反社会的勢力が関係する「実態」の芳しくない相手と取引して自社の評判が低下してしまった。
このように取引によって生じる不祥事や事故を防止し、自社のレピュテーションや信用を守るためにも、3つの「実」をしっかりと確認することが大切です。
本コラム第6回から第9回までは、実在、実体、実態の意味と確認方法をテーマとして、法人審査の新任者の方にも理解しやすいよう、わかりやすく解説していきます。また法人審査の経験を積んでいらっしゃる方にも、自社の審査プロセスが3つの「実」をしっかりと確認するものになっているか、ご再考して頂く契機となれば幸いです。
法人審査において実在、実体、実態の意味の相違が理解されておらず、その結果、架空法人とペーパーカンパニーが混同されてしまっていることが散見されます。
法人が「実在する」とは、その相手が法的に存在している、具体的には登記があるということです。会社の場合は商業登記、社団法人など会社以外の法人の場合は法人登記と呼ばれます。登記がないのに法人を装っているような相手は、実在しない「架空法人」と呼ばれます。
法人に「実体がある」とは、法的に存在し、かつ実際に稼働していることを確認できるという意味です。登記はあるけれども、稼働していない、すなわち中身のない法人は「ペーパーカンパニー」と呼ばれます。書類(登記)だけの会社という意味です。登記は存在するものの、役員が名義だけで従業員もいないといった法人は実体がないペーパーカンパニーといえます。
しばしば「架空法人」(実在しない)と「ペーパーカンパニー」(実体がない)が専門家の間でも混同されてしまうのを目にします。前者は仮装でありそれ自体不芳なものですが、後者は法人設立というプロセスを経て存在しており、ペーパーカンパニーであるからといって直ちに不芳であるということにはなりません。ペーパーカンパニーが不正に悪用されていないかが問題であり、それは「実態」確認によるところとなります。その実態確認の結果によって、ペーパーカンパニーが更に「ダミー」「フロント」「休眠」などと分類されることになります(ペーパーカンパニーの種類については別のコラムで概説します)。
最近では、SNSやスマートフォンのアプリを活用した仕事のマッチングが盛んです。求人側はジャストインタイムで必要な人材を募集し、求職者も空いた時間を見つけてタイムリーに応募することも出来ます。
こうしたマッチングのインフラ上で、特殊詐欺や強盗などの実行役を担う、いわゆる「闇バイト」の募集が行われることがあります。例えば「簡単な運搬のお仕事」というタイトルで、ダンボール1つ運ぶだけで10万円がもらえるといった高額報酬を掲げる募集です。実はこれは特殊詐欺で獲得した犯罪収益(現金)を運ばせる闇の仕事です。
闇バイトの求人広告は、往々にして架空法人の名義で行われます。でたらめな法人名や所在地で広告を出し、そうとは知らない求職者はこれに応募してしまい犯罪に巻き込まれてしまうのです。求職者に法人が架空かどうかを調べるノウハウや意識はない(=情報弱者)ということを見越して、でたらめな架空の名義でも人は集まるだろうと考えているのだと思います。
こうした犯罪行為に関わる求人広告が掲載されてしまうのは、マッチングのインフラを提供している運営者が、求人者がそもそも実在するのかといったチェックを、求人広告の掲載を承認する前に十分にしていなかったからだと考えられます。実在確認の不徹底により、犯罪への加担者を生み出すリスクを放置しているのであれば、そのインフラ運営者自身も犯罪の助長者と風評されかねません。
架空法人の別の悪用例として未公開株詐欺があります。
未公開株詐欺というのは、株式を未だ証券取引所に上場していない会社の株式を、近いうち上場して値上がりが確実だと嘘をついて販売する詐欺です。出資詐欺・投資詐欺の一種ですが、このような詐欺に個人だけではなく、法人も騙されるケースが見受けられます。
経営が苦しい会社の経営者に「金融コンサルタント」が接近し、何倍ものリターンが得られるベンチャー企業への投資案件として紹介してくる。藁をもすがる思いの経営者は、その投資案件に一抹の望みを託し、なけなしの資金を投じる。しかし、結局はそのベンチャー企業は上場しないどころか、そもそも実在しない架空の会社だった。これによって会社が倒産してしまうといったパターンです。
人は切羽詰まった状況では判断力が鈍ります。また「信頼できる者」が持ち込む案件の場合、基本的な実在確認を怠りがちです。それを見越して、真偽不明の「立派な肩書」を並べた金融コンサルタントが接近してきて、経営者を詐欺案件にはめ込もうとするのです。
いかなる状況下であっても、取引の相手について基本的な実在確認は省略してはダメなのです。
次回は、実在、実体、実態の3つの「実」のうち、実在の確認方法について解説させて頂きます。
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